BCP(事業継続計画)と聞くと、分厚い計画書を作る大企業の話に思えるかもしれません。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、最初から完全なものを目指さず、身の丈にあった実現可能なBCPから始めるよう勧めています。従業員数人の整備工場や車販店で、最初に手を付けやすく効果も大きいのが、事務所が使えなくなってもデータが残り、別の場所や新しいパソコンで続きから仕事を始められる状態を作ることです。この記事では、中小企業庁と内閣府の資料をもとに、整備工場のBCPをデータから組み立てる手順を説明します。
BCP(事業継続計画)とは:中小企業庁と内閣府の定義
内閣府の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)は、大地震などの自然災害、感染症のまん延、大事故、サプライチェーンの途絶など不測の事態が起きても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画を、事業継続計画(BCP)と呼んでいます。
中小企業庁の指針は、もう少しくだけた言い方をしています。緊急事態はいつ起きるか分からず、BCPとはそうした緊急事態への備えのことだ、という説明です。指針は東日本大震災で、人材や設備を失って廃業した中小企業や、被害が小さくても復旧が遅れて顧客が離れた企業があったことを、策定を勧める理由に挙げています。
同じ指針は、BCPの特徴として次の5つを示しています。優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する。緊急時の中核事業の目標復旧時間を定めておく。緊急時に提供できるサービスのレベルを顧客と事前に協議しておく。事業拠点や設備、仕入品調達などの代替策を用意しておく。全ての従業員と事業継続について話し合っておく。
BCPとは、重要な事業を止めない、止まっても早く戻すための計画
BCP(事業継続計画)とは、自然災害や大事故、感染症のまん延などの不測の事態でも重要な事業を中断させず、中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順を示した計画です(内閣府「事業継続ガイドライン」令和5年3月)。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、中核事業の特定、目標復旧時間の設定、顧客との事前協議、代替策の用意、従業員との共有の5つをBCPの特徴とし、最初から完全を目指さず身の丈にあった計画から始めるよう勧めています。整備工場では、その入口をデータの備えに置くと取りかかりやすくなります。計画書の厚さより、再開できる状態を先に作ります。
整備工場の事業が止まる原因とデータの位置づけ
整備工場の営業が止まる原因を挙げてみると、多くは事務所や工場という場所への被害です。集中豪雨や台風での浸水、地震、火災、事務所荒らしによるパソコンの盗難、そしてランサムウェアのようなサイバー攻撃があります。
建物やリフト、工具は、保険や融資を使って時間をかければ元に戻せます。整備士も戻ってきます。顧客の連絡先、車検の満了日、未収金の記録、過去の整備履歴は事情が違います。失えばお金を出しても買い戻せず、車検の案内も請求も止まります。
内閣府のガイドラインは、重要業務の継続には、文書を含む重要な情報(バイタルレコード)と情報システムを被災時でも使える状態に保つ必要があるとしています。そのうえで、重要な情報はバックアップを確保し、同じ発生事象で同時に被災しない場所に保存することが必要だと書いています。事務所のパソコンの横に外付けHDDを置いているだけでは、浸水や火災のときに両方を失います。
サイバー攻撃も、BCPで想定しておく事態です。警察庁の令和7年の統計では、ランサムウェア被害を受けた企業・団体のうち回答のあった111件で、サイバー攻撃を想定に含むBCPを策定済みだったのは20件、約18%でした。警察庁は、データの暗号化は地震などの物理的な災害と被害の状況が異なり、調査や復旧の進め方も変わるため、サイバー攻撃を想定したBCPを事前に用意しておく必要があるとしています。手口と対策はランサムウェア対策の記事で詳しく説明しています。
整備工場のBCPで、場所の被害から切り離して守るべきはデータ
整備工場の営業が止まる原因の多くは、浸水、地震、火災、盗難、サイバー攻撃といった事務所への被害です。建物や設備は保険や融資で時間をかければ戻せますが、顧客の連絡先、車検の満了日、未収金、整備履歴は買い戻せません。内閣府の事業継続ガイドライン(令和5年3月)は、重要な情報のバックアップを同じ発生事象で同時に被災しない場所に保存することを求めています。警察庁の令和7年の統計では、ランサムウェアの被害組織111件のうち、サイバー攻撃を想定したBCPを策定済みだったのは約18%でした。災害とサイバー攻撃の両方で、データを事務所の外に残す備えが共通の土台になります。
中核事業と目標復旧時間:整備工場での決め方
中小企業庁の指針は、まず会社の存続に関わる最も重要性または緊急性の高い事業を「中核事業」として特定し、次にそれを支える受注や支払いなどの重要業務と、それに必要な資源を洗い出す流れを示しています。資源のうち、欠けると中核事業が止まってしまうものを指針はボトルネック資源と呼んでいます。
整備工場であれば、中核事業は車検と点検整備、それに伴う請求と入金、という形になることが多いでしょう。必要な資源は、整備士、リフトやテスター、部品の仕入れ先、そして受付から請求までを回す整備システムのデータと親機パソコン、インターネット回線です。この中で、壊れたときに代わりを用意しにくいのはどれかを考えます。工具は借りられても、自社の顧客データは他所から借りられません。
目標復旧時間は、中核事業を復旧させるまでの期限の目安です。指針は、中核事業に関わる取引先と事前に調整して決める方法と、中核事業の停止による収入途絶などの損害に会社が耐えられる期間をもとに決める方法の2つを考慮するよう勧めています。整備工場なら、車検の予約が入っているお客様をどれだけ待たせられるか、月末の請求をどこまで遅らせられるか、という問いに置き換えると決めやすくなります。
| 決めること | 中小企業庁の指針での考え方 | 整備工場での例 |
|---|---|---|
| 中核事業 | 会社の存続に関わる最も重要性・緊急性の高い事業 | 車検・点検整備と、その請求・入金 |
| ボトルネック資源 | 欠けると中核事業が止まる資源 | 整備システムのデータ、親機パソコン、整備士 |
| 目標復旧時間 | 取引先との調整、損害に耐えられる期間で決める | 予約客を待たせられる日数、請求を遅らせられる期間 |
整備工場の中核事業は車検・点検整備、ボトルネックはデータ
中小企業庁の指針は、BCPの最初の作業として、会社の存続に関わる中核事業を特定し、それを支える重要業務と、欠けると事業が止まるボトルネック資源を洗い出す手順を示しています。整備工場では、車検と点検整備、その請求と入金が中核事業になることが多く、資源は整備士、リフトやテスター、部品の仕入れ先、整備システムのデータと親機パソコンです。目標復旧時間は、取引先との調整と、収入が止まっても会社が耐えられる期間の2つから決めます。予約客を何日待たせられるか、請求をどこまで遅らせられるかに置き換えると、経営者が数字を置きやすくなります。代わりの利かない資源から先に守ります。
目標復旧時点(RPO)とバックアップ頻度の決め方
目標復旧時間(RTO)と対になるのが、目標復旧時点(RPO)です。IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版は、RTOを目標復旧レベルまでの復旧に要する時間、RPOを目標とする復旧の時点、つまり直近のバックアップ時点と説明し、この2つに合わせてバックアップの取得や手順を整え、訓練で実効性を検証するよう求めています。
内閣府のガイドラインも、情報のバックアップについて、平常時に使っているデータが失われた場合にどれくらいの期間のデータ損失を許容するかを慎重に検討し、それに基づいて取得頻度を決めることが重要だとしています。
| 指標 | 意味 | 整備工場での考え方の例 |
|---|---|---|
| 目標復旧時間(RTO) | 何時間・何日で業務を再開するか | 新しいパソコンで受付と請求を再開するまでの日数 |
| 目標復旧時点(RPO) | どの時点のデータまで戻すか | 前日の終業時点まで戻れれば、打ち直しは1日分で済む |
RPOを1日と決めれば、少なくとも1日1回はバックアップが必要です。週1回の手作業なら、最悪で1週間分の伝票を打ち直すことになります。頻度と残す回数の決め方はバックアップの頻度と世代管理の記事で詳しく扱っています。
目標復旧時点(RPO)を決めると、バックアップの頻度が決まる
目標復旧時点(RPO)とは、障害が起きたときにどの時点のデータまで戻すかの目標で、直近のバックアップ時点を指します(IPA ガイドライン第4.0版)。内閣府の事業継続ガイドラインも、どれくらいの期間のデータ損失を許容するかを決め、それに基づいてバックアップの取得頻度を決めるよう求めています。整備工場でRPOを1日とすれば、バックアップは少なくとも1日1回必要で、打ち直しは最大1日分に収まります。週1回の手作業なら、最大1週間分の伝票を作り直す覚悟が要ります。RTOとRPOの2つを紙に書くことが、データから始めるBCPの最初の一歩です。
BCP策定の手順:入門コースから始める4ステップ
中小企業庁の指針は、かけられる時間と労力に応じて入門、基本、中級、上級の4つのコースを用意しています。入門コースは、経営者の頭の中にある考えを様式に書き込んで必要最低限のBCPを作るもので、日数の目安は経営者1人で1〜2時間程度とされています。基本コースは経営者1人で1〜2日程度です。
指針の取組状況チェックには、情報のコピーまたはバックアップを取っているか、会社のオフィス以外の場所に保管しているか、主要顧客や公共機関の連絡先リストを作っているか、操業に必要なIT機器が使えないときの代替方法があるか、といった問いが並んでいます。整備工場で入門コースに取り組むなら、この情報の部分から次の4つで始めると具体的です。
- 守るデータを書き出す。整備システムの業務データ、電子で受け取った請求書、点検整備記録簿、車両の写真など
- 事務所の外にも控えを置く。浸水や火災で事務所と一緒に失わない場所を1つ加えます
- 控えを取る作業を自動にする。人が覚えておく運用は、忙しい月に止まります
- 復旧の段取りをA4用紙1枚に書く。保守窓口の電話番号、システム名、戻す手順、主要取引先の連絡先
置き場所の選び方はバックアップの保存先の比較が参考になります。外付けHDD、NAS、クラウドの違いを整理しています。
整備工場のBCPは、入門コースの1〜2時間から始められる
中小企業庁の中小企業BCP策定運用指針には、入門、基本、中級、上級の4コースがあり、入門コースは経営者1人で1〜2時間程度で必要最低限のBCPを作る想定です。指針の取組状況チェックには、情報のバックアップを取っているか、オフィス以外の場所に保管しているか、という問いが含まれています。整備工場なら、守るデータを書き出す、事務所の外にも控えを置く、控えを取る作業を自動にする、復旧の段取りをA4用紙1枚に書く、の4つから始めると具体的です。計画書を作り込むより先に、データが事務所の外に残る状態を作るほうが、被災後の再開に直接効きます。様式の記入は、その後でも間に合います。
システム会社の事情にも備える:データを持ち出せるBCP
中小企業庁の指針が挙げるBCPの特徴の1つに、仕入品調達などの代替策を用意しておくことがあります。整備工場にとって、整備システムも外部から調達している資源の1つです。システム会社がサービスを終える、契約条件が合わなくなる、といった事情で使い続けられなくなる可能性もゼロではありません。
そのときに顧客・車両・伝票・明細のデータを取り出せなければ、新しいシステムに移っても車検の案内や履歴の確認ができず、お客様との関係が実質的にリセットされます。日本カーネットが運営するDataPorta(データポルタ)は、利用者のデータは利用者のものとして扱い、必要になれば返却や移行に応じる、という考えに賛同したシステム会社が掲げるマークです。導入を考える側は、乗り換えの出口が用意されているかを見る手がかりにできます。
データを持ち出せることは、日々のバックアップとは別の備えです。乗り換えの具体的な進め方は整備システムの乗り換えとデータ移行の手順でまとめています。日本カーネットが整備工場のデータは会社の資産と考えているのも、この2つの備えがそろって初めて事業が続くからです。
BCPの訓練と見直し:データを戻す練習
中小企業庁の指針は、BCPを策定していても、普段行っていないことを緊急時に行うのは実際には難しく、あらかじめ検討を重ね、日頃から継続的に訓練しておくことが必要だとしています。データの備えでいえば、訓練はバックアップから実際に戻してみることです。
年に一度、パソコンの入れ替えや決算の時期に合わせて、控えから戻せるか、戻したデータで顧客の呼び出しや車検期日の一覧が出せるかを確かめます。担当者が一人しか手順を知らない状態も、BCPの弱点になります。A4用紙1枚の段取りを、事務の担当者と整備の責任者の2人以上で読み合わせておきます。
訓練しやすい仕組みを選ぶことも備えの一部です。日本カーネットの自動車整備システム(整備システム・整備ソフト DREAM POWER)では、オプションのクラウドバックアップ機能(30日分)を使うと、控えを取る作業そのものがなくなります。親機が動いている間に送信が自動で進み、事務所の外のデータセンターに30回分の控えがたまっていきます。被災して事務所に入れない場合でも、別の場所で用意したパソコンに整備システムを入れ、戻す時点を窓口に伝えれば、顧客・車両・売上・帳票のデータを引き継げます。特別な機器やIT担当者は要りません。
BCPの訓練は、バックアップから実際に戻してみること
中小企業庁の指針は、普段行っていないことを緊急時に行うのは難しく、日頃から継続的に訓練しておく必要があるとしています。整備工場のデータの備えで訓練にあたるのは、バックアップから実際に戻してみることです。年に一度、パソコンの入れ替えや決算の時期に合わせ、控えから戻したデータで顧客の呼び出しや車検期日の一覧が出せるかを確かめます。復旧の段取りを書いたA4用紙1枚は、事務の担当者と整備の責任者の2人以上で読み合わせておきます。手順を知る人が1人だけという状態は、その人が不在の日に計画が動かないことを意味します。戻せることを確かめて初めて、計画は使えるものになります。
よくある質問
- BCPを作るのに、どれくらいの時間がかかりますか?
- 中小企業庁の指針では、入門コースは経営者1人で1〜2時間程度、基本コースは1〜2日程度が目安です。まずは入門コースで、守るデータと事務所の外の保存先、復旧の段取りを書き出すところから始めると進めやすくなります。
- 紙の伝票や控えが残っていれば、データのバックアップは要りませんか?
- 紙の控えも事務所と一緒に浸水や火災の被害を受けます。紙から打ち直す場合は、電話予約のメモのように紙に残っていない情報は戻りません。内閣府のガイドラインが求めるように、同時に被災しない場所にデータの控えを置いてください。
- BCPにサイバー攻撃も入れたほうがよいですか?
- 入れておくことをおすすめします。警察庁は、ランサムウェアによるデータの暗号化は地震などの災害と被害の状況が異なり、対応も変わるため、サイバー攻撃を想定したBCPを事前に用意しておく必要があるとしています。令和7年の被害組織で策定済みだったのは約18%でした。
- 自動車整備システムや整備ソフトを選ぶとき、BCPの観点で確かめることは?
- システム側に障害が起きたり、提供が終わったりしても、自社のデータが手元に残るかを見ます。控えが事務所の外に自動で保管されるか、さかのぼれる回数、復元を案内する窓口の有無、顧客・車両・伝票のデータを出力して持ち出せるか、の4つです。整備システム 比較や整備ソフト 安いといった情報で候補を絞るときも、価格の横にこの4つを書き足しておくと、BCPの様式にそのまま転記できます。
- 自社のバックアップがBCPとして足りているか相談できますか?
- 目標復旧時間や目標復旧時点をどう置けばよいか迷っている段階でもかまいません。いまの控えの取り方をお聞きしたうえで、日本カーネットが無料でご説明します。無料相談フォーム、または電話03-5256-7877で受け付けています。
出典・参考資料
- 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」(第2版)
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/ - 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針 第2版」PDF
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/download/bcppdf/bcpguide.pdf - 内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(令和5年3月)
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline202303.pdf - IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」本編PDF
https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/ug65p90000019cbk-att/sme_guideline_v4.0.pdf - 警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和8年3月公表)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R7/R07_cyber_jousei.pdf - DataPorta(データポルタ)
https://dataporta.info/
記載内容は2026年10月6日時点で公表資料を確認したものです。法令の解釈や個別の判断が必要な場合は、専門家または所管官庁にご確認ください。
整備工場のデータは、会社の資産。
なくさないためのクラウドバックアップ機能(30日分)は、整備システム・整備ソフト DREAM POWER のオプションです。親機を起動しておくだけで自動で取得し、最新30回分を保管します。いまの保存先・頻度・世代数をお聞きして、何が変わるかを無料でご説明します。
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