整備ソフトの乗り換えでいちばん手間がかかるのは、新しいソフトの操作を覚えることより、今のソフトに入っている顧客、車両、整備履歴を新しい方へ正しく移すデータ移行です。順番を間違えると、車検期日がずれたり、過去の明細が抜けたりして、移行後しばらく案内業務が回らなくなります。この記事では、整備工場のシステム移行を6つのステップに分け、それぞれで何を準備し、何を確かめるかを具体的に書きます。
| ステップ | やること | 主に動く人 |
|---|---|---|
| 1 | 移行作業の前に、今のデータのバックアップを取る | 事務担当 |
| 2 | 移すデータの棚卸しをする | 事務担当と工場長 |
| 3 | 今のシステムからCSVなどで出力する | 事務担当、旧システム会社 |
| 4 | 旧データの項目と新システムの項目を対応づける | 事務担当、新システム会社 |
| 5 | 一定期間、新旧を並行稼働させる | 受付と事務の全員 |
| 6 | 移行後の確認をして、旧データを保管する | 事務担当と工場長 |
データ移行の前にバックアップを先に取る
データ移行の作業は、普段しない操作の連続です。出力の設定を間違えて上書きしたり、旧システムの解約手続きが先に進んで画面に入れなくなったりすることもあります。そこで、何かに手を付ける前に、今のシステムのデータをそのまま丸ごと残しておきます。これが失敗したときに戻れる唯一の地点になります。
- システム会社が用意しているバックアップ機能で、いまの状態を保存する
- 保存先は、今のパソコンとは別の場所(外付けの記録媒体やクラウドのバックアップなど)にする
- 保存した日時と、そのとき最後に入力した伝票番号をメモしておく
- 移行が終わって確認が済むまで、このバックアップは消さない
バックアップは、そのシステムでしか読めない形式であることが多い点に注意してください。旧システムを解約したあとでは開けなくなる場合があるので、ステップ3の出力とは別物として扱います。保存先の選び方はバックアップの保存先:外付けHDD、NAS、クラウドの違い、複数の場所に分けて置く考え方は3-2-1ルールで説明しています。
システム移行でバックアップを最初に取る理由
システム移行の最初の一手は、データ移行の作業に入る前に、今のシステムのデータを丸ごとバックアップすることです。出力の操作ミスや、解約手続きの行き違いで旧システムに入れなくなっても、このバックアップがあれば移行前の状態に戻れます。保存したら、日時と最後の伝票番号を記録しておくと、どこまでのデータが入っているかを後で確かめられます。注意したいのは、システムのバックアップは多くの場合そのシステム専用の形式で、乗り換え先では開けないことです。移行用のCSV出力とは役割が違うので、両方を用意します。移行と確認が終わるまでは、このバックアップを消さずに残しておきます。
システム移行前のデータ棚卸し
棚卸しとは、今のシステムにどんなデータが、どのくらいの量、何年分入っているかを一覧にする作業です。移す範囲を決めないまま出力を始めると、必要な項目が抜けていたことに切り替え後に気付く、という事態が起こります。
整理の枠組みとして使いやすいのが、DataPorta(データポルタ)が示している4つの区分です。DataPortaは日本カーネットが運営するマーク制度で、自動車整備業務システムのデータを返却や移行の対象として、顧客情報、車両情報、伝票と車歴の見出し情報、車歴明細情報に分けています。項目の例は返却対象データで確認できます。この4区分で自社のデータを数えると、抜けが見えやすくなります。
| 区分 | 棚卸しで数えること | 含まれる項目の例 |
|---|---|---|
| 顧客情報 | 件数、休眠客を含めるか | 得意先コード、氏名、住所、電話番号、請求先コード |
| 車両情報 | 台数、手放した車を含めるか | 登録番号、車台番号、型式、車検期日、点検期日 |
| 伝票と車歴の見出し | 何年分を移すか | 伝票番号、入庫日、走行距離、請求額合計 |
| 車歴明細 | 見出しと結びつけて移せるか | 作業や部品の名称、数量、単価、金額、技術料 |
このほか、部品や作業のマスタ、未収金の残高、見積の途中データ、お客様ごとのメモ欄なども、使っているなら棚卸しに入れます。メモ欄は工場ごとの使い方が大きく違うので、新システムのどこに入れるかを早めに決めておくと後で迷いません。
データ棚卸しで決めること
データ棚卸しとは、移行の前に、今の整備システムに入っているデータの種類、件数、期間を一覧にして、移す範囲を決める作業です。区分は、顧客情報、車両情報、伝票と車歴の見出し、車歴明細の4つで考えると漏れが出にくくなります。この4区分は、日本カーネットが運営するDataPortaの返却対象データと同じ分け方です。決める内容は、休眠客や手放した車まで移すか、伝票と明細を何年分移すか、部品マスタやメモ欄をどう扱うか、の3点が中心です。全部を移すのが理想ですが、移す量が増えるほど確認の手間も増えるので、工場長と事務担当で範囲を決め、紙に残してから次の出力へ進みます。
整備システムのCSV出力とデータ移行の形式
棚卸しで範囲が決まったら、今の整備システムからデータを書き出します。多くの場合はCSV形式です。CSVはカンマで区切った文字だけのファイルで、表計算ソフトでも開けるため、システムの間でデータを受け渡すときの共通の形として使われます。
出力は、システムの画面から自分で行える場合と、システム会社に依頼して抽出してもらう場合があります。依頼が必要なら、いつまでに、どの区分を、どの形式で受け取れるかを先に確認し、解約日より前に受け取れる日程を組みます。公正取引委員会の2022年の報告書も、契約終了時にデータを完全な形で取り出す方法が提供されているかを利用者が確認し、確認できない場合は取り出しの条件や範囲を事業者に確かめるよう勧めています。
- 区分ごとに別ファイルで出す(顧客、車両、伝票の見出し、明細)
- ファイル名に出力日を入れ、出した件数を画面の件数と照らし合わせる
- 文字化けしていないか、表計算ソフトで開いて先頭と末尾の数行を見る
- 郵便番号や電話番号の先頭の0が消えていないかを見る
- 出力したファイルは、お客様の個人情報を含むので、保管場所と閲覧できる人を限る
何を出しておけばよいかの詳しい一覧は、整備システムのCSV出力で残しておくべきデータにまとめています。
CSV出力で確かめること
整備システムのデータ移行では、今のシステムから顧客、車両、伝票の見出し、明細を、区分ごとのCSVファイルとして書き出すのが一般的です。出力したら、件数が画面の件数と合っているか、文字化けが無いか、郵便番号や電話番号の先頭の0が消えていないかを確認します。表計算ソフトでCSVを開いて保存し直すと、数字の列が勝手に変換されることがあるので、元のファイルは手を加えずに残しておきます。自分で出力できないシステムでは、システム会社に抽出を依頼し、解約日より前に受け取れる日程を決めます。依頼の内容と受け取り日はメールで残しておくと、行き違いを防げます。
データ移行の項目の対応づけ
旧システムのCSVをそのまま新システムに読み込めることはまれです。列の名前や並び、日付の書き方、コードの付け方がシステムごとに違うためです。そこで、旧データの列ごとに、新システムのどの項目へ入れるかを表にします。これを項目の対応づけと呼びます。
| 旧システムの列 | 新システムの項目 | 注意すること |
|---|---|---|
| 車検満了日 | 車検期日 | 和暦と西暦、年月日の区切り方をそろえる |
| 顧客No | 得意先コード | 桁数が違う場合は先頭に0を足すかを決める |
| 区分(1、2、3) | 伝票区分 | 数字が何を意味するかを旧システムの説明書で確認する |
| 備考 | メモ | 文字数の上限が新システムの方が短いと切れる |
| 伝票No | 伝票番号 | 明細側の伝票番号と一致させ、見出しと明細を結びつける |
とくに大事なのが、伝票の見出しと明細を結ぶ伝票番号、車両と顧客を結ぶコードです。ここがずれると、ある車の整備履歴が別の車に付いてしまいます。対応表は新システムの会社と一緒に作り、意味の分からない列は旧システムの会社に問い合わせて埋めておきます。
項目の対応づけで失敗しやすい箇所
項目の対応づけとは、旧システムから出したCSVの列ごとに、新システムのどの項目へ入れるかを決めて表にする作業です。失敗しやすいのは、日付の書き方(和暦と西暦)、コードの桁数、数字で表された区分の意味、文字数の上限の4か所です。もう1つ見落とせないのが、データ同士をつなぐ番号です。伝票の見出しと明細をつなぐ伝票番号、車両と顧客をつなぐコードがずれると、整備履歴が別の車に付いてしまい、点検の案内先を間違える原因になります。対応表は新旧どちらのシステム会社にも見せて、意味が不明な列を残さないようにしてから読み込みに進みます。最初は少ない件数で試しに読み込み、画面で確かめてから全件に広げると安全です。
システム移行の並行稼働と切り替え日
読み込みが終わっても、いきなり旧システムを止めるのは危険です。一定の期間、新旧の両方に同じ伝票を入力して結果を比べる並行稼働を行うと、移行のずれや操作の迷いを本番前に見つけられます。
- 期間中は、同じ受付を新旧両方に入れ、請求額や車検期日の表示が一致するかを見る
- 車検や点検の入庫が多い時期を避けて期間を置く
- どちらの数字を正とするかを決めておく(並行期間中にどちらで請求書を発行するかも決める)
- 旧システムで新しく入力した分は、切り替え日に差分として新システムへ移す
切り替え日は、月末の締めの直後など、区切りのよい日に置くと集計がしやすくなります。旧システムの契約期間と重なる期間はあらかじめ見込んでおき、解約の申し入れの期限から逆算して日程を組みます。
並行稼働の期間と進め方
並行稼働とは、システム移行の直後に、新旧2つのシステムへ同じ伝票を入力し、結果が一致するかを確かめる期間のことです。請求額、消費税の計算、車検期日や点検期日の表示がそろっていれば、データ移行と設定が正しくできていると判断できます。期間の長さは工場の伝票数によりますが、少なくとも1回は月末の締めをまたぐと、請求書の発行や入金の消し込みまで試せます。入庫が多い時期は二重入力の負担が重くなるので避けます。並行期間中に旧システムだけに入った伝票は、切り替え日に差分として新システムへ移し、その日を境に入力先を一本にします。どちらで請求書を出すかも、期間の初めに決めておきます。
データ移行後の確認と旧データの保管
切り替えが済んだら、移したデータを抜き取りで点検します。確認の結果は日付を付けて残しておくと、後から問い合わせがあったときにどこまで確認したかが分かります。
| 確認すること | 見方 |
|---|---|
| 件数 | 顧客数、車両台数、伝票数が旧システムと一致するか |
| 車検期日 | 今月と来月に車検を迎える車を両方で一覧にして比べる |
| 整備履歴 | よく来るお客様の車を数台選び、過去の明細が全部付いているか |
| 金額 | 直近1か月の売上合計と未収金の残高が合うか |
| 帳票 | 見積書、請求書、点検整備記録簿が正しく印刷されるか |
旧システムのデータは、切り替えたらすぐ不要になるわけではありません。国税庁は、法人の帳簿書類の保存期間を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から原則7年間としています(欠損金が生じた事業年度などは10年間)。点検整備記録簿にも保存期間があります。新システムへ移さなかった古い伝票は、出力したCSVや帳票の写しとして、期間中は取り出せる形で保管してください。電子で保存するときの要件は電子帳簿保存法とバックアップで取り上げています。
新しいシステムが動き始めたら、バックアップの仕組みも作り直します。日本カーネットの自動車整備システム、整備システム・整備ソフト DREAM POWER では、オプションのクラウドバックアップ機能(30日分)で、親機パソコンのデータを自動でクラウドサーバーへ送り、最新30回分を世代管理できます。移行が終わった日を新しいバックアップの起点にしておくと、何かあってもその日以降の状態へ戻れます。
移行後の確認と保管期間
データ移行後の確認は、件数、車検期日、整備履歴、金額、帳票の5つを抜き取りで見るのが基本です。件数が一致していても、明細が別の車に付いているといったずれは件数では分からないため、常連のお客様の車を数台選び、過去の明細を新旧で見比べます。旧システムのデータは切り替え後もすぐには捨てられません。国税庁によれば、法人の帳簿書類の保存期間は確定申告書の提出期限の翌日から原則7年間です。新システムへ移さなかった古い伝票は、CSVや帳票の写しで取り出せる状態にしておきます。最後に、新しいシステムでのバックアップを移行完了日から始めれば、システム移行は一区切りです。
よくある質問
- データ移行にはどのくらいの期間を見ておけばよいですか。
- データ量や旧システムの出力方法で変わります。棚卸し、出力、対応づけ、並行稼働のそれぞれに日程を取り、並行稼働は少なくとも1回は月末の締めをまたぐように組むと、請求や入金まで確かめられます。
- 旧システムからCSVが出せない場合はどうすればよいですか。
- システム会社に抽出を依頼し、区分、形式、受け取り日を文字で確認します。解約日より前に受け取れる日程にしてください。DataPortaマークの会社は、自由に出力できない場合もシステム会社が抽出して受け渡すことに賛同しています。
- 過去の整備明細は何年分移すべきですか。
- 点検提案や保証対応に使う範囲で決めます。移さなかった分は、帳簿書類や点検整備記録簿の保存期間中は取り出せるよう、CSVや帳票の写しで保管してください。
- 整備ソフトの乗り換え先は、何を基準に選べばよいですか。
- 業務に合う機能と費用に加えて、データを取り込む手順と、将来また乗り換えるときの出力機能を確かめてください。自動車整備システムの比較は姉妹サイトの整備システム比較でも扱っています。
- 移行作業中にデータが消えたらどうなりますか。
- 作業の前に取ったバックアップから元の状態へ戻します。だからこそ、移行に手を付ける前のバックアップを、今のパソコンとは別の場所に保存しておくことが最初の手順になります。
出典・参考資料
- 公正取引委員会「クラウドサービス分野の取引実態に関する報告書」本体(利用者により実施されることが推奨される取組)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/digital/hontai.pdf - 国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5930.htm - DataPorta(データポルタ)
https://dataporta.info/ - DataPorta 返却対象データ
https://dataporta.info/data/
記載内容は2026年10月6日時点で公表資料を確認したものです。法令の解釈や個別の判断が必要な場合は、専門家または所管官庁にご確認ください。
整備工場のデータは、会社の資産。
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