データポータビリティとは、サービスに預けた自分のデータを、使いやすい形で受け取ったり、別のサービスへ移したりできることです。EUでは一般データ保護規則(GDPR)第20条が個人の権利として定め、日本では2022年4月施行の改正個人情報保護法で、保有個人データの開示を電磁的記録で受け取る道が広がりました。中身は似ていますが、同じではありません。この記事では、両者の中身を原文に沿って整理し、整備工場が業務システムに入れている顧客や整備履歴のデータとどう関わるかを説明します。
データポータビリティとは:受け取ることと移すこと
ポータビリティは「持ち運べること」を意味する言葉です。データポータビリティには、大きく2つの中身があります。1つは、事業者が持っている自分に関するデータを、ほかのソフトでも扱える形で受け取ること。もう1つは、そのデータを別の事業者のサービスへ移すことです。携帯電話の番号をそのまま別の会社へ持っていける仕組みを思い浮かべると、考え方がつかみやすくなります。データでも同じです。
この考え方が重視されるのは、データが一つの事業者の中に閉じたままだと、利用者がよりよいサービスへ移りにくくなるからです。特定の事業者から離れられなくなる状態はベンダーロックインと呼ばれます。出口がない状態です。詳しくはベンダーロックインとは:整備システムで起きることで取り上げています。
| EU:GDPR第20条 | 日本:改正個人情報保護法 | |
|---|---|---|
| 位置づけ | データポータビリティの権利として明文化 | 保有個人データの開示方法を本人が指示できる |
| 適用の開始 | 2018年5月25日から適用 | 2022年4月1日施行の令和2年改正 |
| 受け取る形 | 構造化され、一般的に利用され機械可読性のある形式 | 電磁的記録の提供、書面の交付など |
| 別の事業者への移行 | 技術的に実行可能な場合、直接移させる権利がある | 改正の概要に挙げられているのは開示方法の指示 |
データポータビリティの意味
データポータビリティとは、事業者が持っている自分のデータを、ほかのソフトでも扱える形で受け取り、別の事業者のサービスへ移せるようにする考え方です。EUのGDPRは第20条でこれを個人の権利として定め、2018年5月25日から適用されています。日本では、2022年4月1日に施行された令和2年改正の個人情報保護法で、保有個人データの開示方法について、電磁的記録の提供を含めて本人が指示できるようになりました。どちらも対象は個人に関するデータです。会社と会社の取引で生まれる業務データまでは、これらの規定だけでは守られません。業務データの持ち出しは、契約や業界の取り組みで確かめる必要があります。
GDPR第20条のデータポータビリティ権
まず原文から見ます。GDPRは、2016年4月27日に採択された規則(EU)2016/679で、2018年5月25日から適用されています。第20条「データポータビリティの権利」の第1項は、個人情報保護委員会が公表している仮日本語訳で次のように書かれています。データ主体は、自己が管理者に対して提供した自己と関係する個人データを「構造化され、一般的に利用され機械可読性のある形式で受け取る権利をもち」、また、提供を受けた管理者から妨げられることなく「別の管理者に対し、それらの個人データを移行する権利を有する」。
条件があります。この権利が使えるのは、2つの条件を両方満たす場合です。1つは、取扱いが本人の同意、または本人との契約に基づいていること(第6条第1項(a)(b)、第9条第2項(a))。もう1つは、取扱いが自動化された手段で行われていることです。紙だけで管理しているデータや、法令上の義務に基づく取扱いは、この条件に当たりません。対象は限られます。
- 第2項:技術的に実行可能な場合、ある管理者から別の管理者へ直接移させる権利がある
- 第3項:第17条(消去の権利)を妨げない。公共の利益や公的権限の行使のための取扱いには適用されない
- 第4項:この権利は、他の者の権利と自由に不利な影響を及ぼしてはならない
第4項は配慮の規定です。たとえば自分のデータの中に他人の情報が含まれている場合に、その人の権利を損なわないよう配慮を求める規定です。データポータビリティ権は強い権利です。ただ、何でも無条件に持ち出せるわけではありません。
GDPR第20条の要点
GDPR第20条のデータポータビリティ権は、本人が管理者に提供した自分の個人データを、構造化され、一般的に利用され、機械可読性のある形式で受け取り、別の管理者へ移す権利です。2018年5月25日から適用されています。使える条件は、取扱いが本人の同意か契約に基づき、かつ自動化された手段で行われていることの2つです。技術的に可能なら、管理者から管理者へ直接移させることも求められます(第2項)。一方で、公共の利益のための取扱いには適用されず(第3項)、他人の権利と自由を損なってはならない(第4項)という限界もあります。表計算ソフトで開けるCSVのような形式は、この「機械可読性のある形式」の身近な例です。
改正個人情報保護法と保有個人データの開示方法
日本の個人情報保護法は、2020年(令和2年)6月12日に改正法が公布され、主な部分が2022年(令和4年)4月1日に施行されました。個人情報保護委員会の解説資料「令和2年改正個人情報保護法について」によると、改正前は保有個人データの開示方法は書面の交付が原則でした(改正前第28条)。改正後は、電磁的記録の提供を含め、本人が開示方法を指示できるようになっています(改正後第33条)。紙からデータへ、という変化です。
本人が請求できる方法は、委員会規則で、電磁的記録の提供、書面の交付、その他事業者の定める方法とされています。電磁的記録の提供の例として、同資料はCD-ROMなどの媒体を郵送する方法、電子メールで送る方法、ウェブサイトからダウンロードしてもらう方法を挙げています。ファイル形式や記録媒体といった具体的な方法は事業者が定めることができ、本人が形式を指定しても応じる必要はないとされていますが、できる限り本人の要望に沿うことが望ましいとも書かれています。形式の指定には応じなくてよい、ただし配慮はする、という整理です。
電磁的記録での提供が難しい場合に書面で交付できるのは、開示請求に応じるために大規模なシステム改修が必要で多額の費用がかかる場合など、電磁的記録による開示が困難な場合に限られます。同じ改正では、個人データを他の事業者とやり取りした記録(第三者提供記録)も本人が開示を請求できるようになり、6か月以内に消去する短期保存データも保有個人データに含められました。
日本のデータポータビリティに近い仕組み
日本の個人情報保護法で、データポータビリティに近い役割を持つのが保有個人データの開示です。2022年4月1日施行の令和2年改正で、その開示方法を本人が指示できるようになりました(第33条)。指示できるのは、電磁的記録の提供、書面の交付、その他事業者の定める方法です。電磁的記録の例は、CD-ROMの郵送、電子メールでの送信、ウェブサイトからのダウンロードです。ファイル形式は事業者が決められますが、できる限り本人の要望に沿うことが望ましいとされます。書面での交付に切り替えられるのは、大規模なシステム改修で多額の費用がかかる場合など、電磁的記録による開示が困難なときに限られます。
データポータビリティ権と事業者の業務データ
GDPR第20条も日本の改正法も、守っているのは個人(データ主体、本人)の権利です。整備工場がシステム会社のサービスに入れているデータのうち、伝票や整備明細、部品の在庫といった事業の記録は、工場という事業者自身の資産です。こうした業務データをシステム会社から返してもらえるかどうかは、これらの個人の権利だけでは決まりません。ここは誤解の多いところです。
会社のデータはどうでしょうか。事業者どうしのデータの移しやすさについては、別の取り組みが進んでいます。EUでは、データ法(規則(EU)2023/2854)が2024年1月11日に発効し、2025年9月12日から適用されています。欧州委員会の説明によれば、この規則はデータ処理サービスの提供者を顧客が効果的に切り替えるための枠組みを定めています。日本では、公正取引委員会が2022年6月の「クラウドサービス分野の取引実態に関する報告書」で、利用者がシステムの移行やデータポータビリティに関するニーズを満たしているかを契約前に確認することや、移行支援やデータの受け渡しの条項を契約に設けることを推奨しています。
では、現場ではどうするか。整備工場の実務に置き換えると、業務データの持ち出しは、法律に頼るより先に、契約と利用規約で確かめるのが現実的です。読み方は契約終了時のデータ返却を契約書・利用規約で確認する方法で詳しく説明しています。
個人のデータと会社のデータの違い
データポータビリティ権は、個人が自分の個人データについて持つ権利です。GDPR第20条も、日本の改正個人情報保護法の開示方法の指示も、本人を守るための規定です。整備工場が整備システムに入れている伝票や整備明細、部品の在庫などは、工場という事業者の業務データであり、これらの規定だけでは返却が約束されません。EUでは2025年9月12日からデータ法(規則(EU)2023/2854)が適用され、データ処理サービスの切り替えの枠組みが整いつつあります。日本では、公正取引委員会が2022年の報告書で、契約前にデータの取り出し方法を確かめ、必要なら受け渡しの条項を契約に入れるよう利用者に勧めています。
整備工場にとってのデータポータビリティ
立場は2つあります。整備工場は、データポータビリティについて預かる側と預ける側の両方に立つからです。1つ目は、お客様の個人情報を預かる側の立場です。顧客台帳を整備システムで管理していれば、お客様から保有個人データの開示を請求され、電磁的記録での提供を指示されることがあり得ます。顧客や車両の情報をCSVなどで書き出せるシステムなら、こうした請求にも落ち着いて対応できます。
2つ目は、システム会社にデータを預ける側の立場です。顧客情報、車検証の内容、伝票、整備明細は、車検の案内や点検の呼びかけに毎日使う工場の資産です。代わりはききません。システムを替えるときにこれが返ってこなければ、お客様との関係を一から作り直すことになります。
この「預ける側」の不安に応えるために日本カーネットが運営しているのが、DataPorta(データポルタ)というマーク制度です。自動車整備業務システムの会社が、お客様のデータをお客様自身の資産として尊重し、必要なときに返却や移行ができることに賛同していると表明します。返却の対象は、顧客情報、車両情報、伝票と車歴の見出し情報、車歴明細情報の4種類で、項目の例は返却対象データで公開されています。出力はお客様自身がCSVやExcel形式で行うのが基本で、自由に出力できないシステムではシステム会社が抽出して受け渡します。
整備工場の2つの立場
整備工場にとってデータポータビリティは、お客様のデータを預かる立場と、自社のデータをシステム会社に預ける立場の両方に関わります。預かる立場では、2022年4月施行の改正個人情報保護法により、お客様が保有個人データの開示を電磁的記録で求めることがあります。預ける立場では、顧客、車両、伝票、整備明細の4種類のデータを、システムを替えるときに返してもらえるかが問題になります。日本カーネットが運営するDataPortaは、自動車整備業務システムの会社が、この4種類のデータの返却や移行に賛同していることを示すマーク制度です。どちらの立場でも、データをほかのソフトで開ける形で書き出せることが備えの出発点になります。
データポータビリティを支える出力形式とバックアップ
GDPRが求める「構造化され、一般的に利用され機械可読性のある形式」は、整備工場の実務ではCSVやExcelのファイルとして現れます。理由は単純です。列ごとに項目が分かれ、表計算ソフトでも開け、ほかのシステムにも読み込ませやすいからです。普段から何を書き出せるかを知っておくと、開示請求にもシステムの入れ替えにも同じ手順で対応できます。具体的な項目は整備システムのCSV出力で残しておくべきデータを参考にしてください。
持ち出せる形で書き出せることと並んで、データそのものを失わない備えも必要です。故障や災害、ランサムウェアで消えたデータは、受け取ることも移すこともできません。順番としては、まず残すことです。そのうえで、出せる形にしておきます。日本カーネットの自動車整備システムである整備システム・整備ソフト DREAM POWER には、オプションのクラウドバックアップ機能(30日分)があり、親機パソコンのデータを暗号化してクラウドサーバーへ自動で送り、最新30回分を世代管理します。なくさないことと持ち出せることの2本立ては、整備工場のデータは会社の資産でも紹介しています。
機械可読性のある形式とは
機械可読性のある形式とは、人が画面や紙で読むだけでなく、コンピューターがそのまま読み込んで項目ごとに処理できるデータの形のことです。GDPR第20条は、データポータビリティ権の対象となる個人データを「構造化され、一般的に利用され機械可読性のある形式」で受け取れると定めています。整備工場で身近な例は、列ごとに氏名、住所、登録番号、車検期日などが分かれたCSVやExcelのファイルです。反対に、帳票を画像にしたものや紙の印刷は、人には読めても別のシステムへそのまま取り込めません。今の整備システムでどの項目をこの形で書き出せるかを一度確かめておくと、開示請求にも乗り換えにも同じ準備で応えられます。
よくある質問
- データポータビリティとは何ですか。
- 事業者が持っている自分のデータを、ほかのソフトでも扱える形で受け取り、別の事業者のサービスへ移せるようにする考え方です。EUではGDPR第20条が個人の権利として定めています。
- 日本にもデータポータビリティ権はありますか。
- 近い役割を持つ仕組みとして、2022年4月1日施行の改正個人情報保護法で、保有個人データの開示方法を電磁的記録の提供を含めて本人が指示できるようになりました(第33条)。
- お客様から個人データの開示をデータで求められたら、どんな形式で渡せばよいですか。
- 個人情報保護委員会の資料では、ファイル形式や媒体などの具体的な方法は事業者が定められるとされています。ただし、できる限り本人の要望に沿うことが望ましいとされているので、CSVやPDFなど相手が開ける形を選んでください。
- 整備システムに入れた伝票や整備明細も、データポータビリティ権で返してもらえますか。
- データポータビリティ権は個人の個人データについての権利なので、事業者の業務データの返却は契約と利用規約で確かめる必要があります。DataPortaマークは、返却や移行に賛同しているシステム会社を見分ける目安になります。
- 自動車整備システムや整備ソフトを選ぶとき、データの面で比べておくことはありますか。
- 顧客、車両、伝票、整備明細をCSVやExcelで書き出せるか、解約時にデータをどう受け取れるかを比べてください。整備システムの比較は姉妹サイトの整備システム比較でも扱っています。
出典・参考資料
- 個人情報保護委員会「一般データ保護規則(GDPR)の条文」仮日本語訳(第20条 データポータビリティの権利、第99条 発効及び適用)
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/gdpr-provisions-ja.pdf - EUR-Lex Regulation (EU) 2016/679(General Data Protection Regulation)
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2016/679/oj - 個人情報保護委員会「令和2年改正個人情報保護法について」(令和4年3月)
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/r2kaiseihou.pdf - European Commission, Data Act
https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/data-act - 公正取引委員会「クラウドサービス分野の取引実態に関する報告書」本体
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/digital/hontai.pdf - DataPorta(データポルタ)
https://dataporta.info/ - DataPorta 返却対象データ
https://dataporta.info/data/
記載内容は2026年10月6日時点で公表資料を確認したものです。法令の解釈や個別の判断が必要な場合は、専門家または所管官庁にご確認ください。
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